はじめに:揺れ動く季節と、止まったままの心
暦の上では立春を過ぎ、日差しの中にわずかな温もりを感じる日が増えてきました。しかし、2月という月は「三寒四温」という言葉通り、春のような暖かさが訪れたかと思えば、翌日には真冬の寒さに逆戻りする、非常に不安定な時期でもあります。
この不安定な空模様は、大切なペットを亡くされた飼い主様の心境と、どこか似ているのかもしれません。 「少しずつ前を向けてきたかな」と思えた翌日に、どうしようもない喪失感に襲われ、布団から起き上がることさえ辛くなってしまう。そんな一進一退を繰り返しながら、私たちは「あの子がいない世界」を必死に歩いています。
2月15日。街が少しずつ春の準備を始めるこの時期に、あの子との思い出をどう抱きしめ、どのように新しい季節を迎えればよいのか。今日はその「心の準備」について、ゆっくりと考えてみたいと思います。
2月15日「涅槃会」に寄せて:供養の原点に立ち返る
本日、2月15日は仏教において「涅槃会(ねはんえ)」と呼ばれる大切な日です。これはお釈迦様が亡くなられた日であり、多くの寺院で法要が行われます。
ペット供養においても、こうした節目は自分の心を見つめ直す良い機会となります。しかし、ここでお伝えしたいのは「立派な供養をしましょう」ということではありません。むしろその逆で、「供養という言葉に縛られすぎていませんか?」という問いかけです。
四十九日や一周忌といった大きな節目を過ぎると、周囲からは「もう落ち着いた?」「そろそろ前を向かないとね」という言葉をかけられることもあるでしょう。すると、真面目な飼い主様ほど、「ちゃんとお供えをして、明るく振る舞わなければ」と、自分を追い込んでしまいがちです。
ですが、涅槃会の本質は「失った悲しみに暮れること」だけではなく、「生きていたことの尊さを再確認すること」にあります。 もし、今日お花を買いに行く気力がなくても、お線香をあげるのを忘れてしまっても、あの子を想う一瞬の「あいたいな」という気持ちがあれば、それだけで十分すぎるほどの供養になっているのです。形に囚われず、あなたの「今」の心のままに向き合うこと。それが、あの子が一番望んでいるあなたの姿かもしれません。
季節の移ろいがもたらす「罪悪感」との向き合い方
春が近づくにつれ、公園の桜の蕾が膨らみ、散歩道の景色が色づき始めます。こうした季節の変化を、素直に喜べないと感じることはありませんか?
「あの子はこの春を見ることができないのに、自分だけが暖かい季節を迎えていいのだろうか」 「季節が巡るたびに、あの子が生きていた時間からどんどん遠ざかってしまう」
こうした「置いていかれるような感覚」や「楽しむことへの罪悪感」は、ペットロスを経験した多くの方が抱く感情です。しかし、季節が巡ることは、あの子との距離を遠ざけることではありません。むしろ、あの子と共に過ごした四季を、もう一度新しい光の中でなぞり直していく作業なのです。
去年の春、あの子はどこで日向ぼっこをしていましたか? 風の匂いを嗅いで、どんな顔をしていましたか? 春の訪れは、あの子との「幸せな記憶」を呼び起こすトリガーでもあります。悲しみというフィルターを通さず、その温かな記憶だけに集中できる時間が、数分でも持てるようになれば、それは心の傷が少しずつ癒えている証拠です。
今すぐできる、小さな「春の準備」
心が沈みがちなこの時期、無理に外出したり、新しいことを始めたりする必要はありません。お家の中で、あの子と一緒にできる「小さな春の準備」をいくつか提案します。
1. お部屋の「光」をプレゼントする
冬の間、太陽の低い光は部屋の奥まで届いていました。しかし春が近づくと、光の角度が変わります。あの子の写真や骨壷を置いている場所は、今、心地よい光が届いていますか? もし影になってしまっているなら、ほんの少し場所を移動させてあげてください。あの子が好きだった窓際や、午前中の光が一番綺麗な場所へ。それだけで、あの子を囲む空気がふんわりと暖かく変わるはずです。
2. 春を告げる「色」を一輪
2月の花屋さんには、チューリップやスイートピー、菜の花など、春の先取りの花が並びます。立派な仏花である必要はありません。あの子のイメージに合った色を、一輪だけ選んでみてください。 黄色は心を元気にし、桃色は心を癒やし、紫は心を落ち着かせてくれます。花を選ぶその瞬間、あなたは「あの子のために何がいいかな」と、あの子のことを想っています。その時間が、何よりの贈り物になります。
3. 「三寒四温」を言い訳にする
もし、どうしても体がだるかったり、涙が止まらなかったりする日があれば、「今日は『寒』の日だから仕方ない」と、季節のせいにしてしまいましょう。 低気圧や寒暖差は、私たちが思っている以上に心身に影響を与えます。自分の弱さを責めるのではなく、「今は冬が最後のわがままを言っている時期だから、私も一緒に休もう」と、自分を甘やかしてあげてください。
おわりに:春は、必ず訪れるから
三寒四温を繰り返しながら、冬は確実に春へとバトンを渡していきます。 あなたの心も同じです。今はまだ、凍てつくような寒さの中にいるかもしれません。けれど、あの子と過ごした日々という「心の貯金」がある限り、あなたの心に永遠の冬が続くことはありません。
2月15日。お釈迦様が静かに旅立たれたこの日に、改めてあの子へ感謝を伝えてみませんか。 「私を飼い主にしてくれてありがとう。今年もまた、春が来るよ。ゆっくり一緒に迎えようね」と。
春の風が吹く頃、あなたの頬を伝う涙が、少しでも温かなものに変わっていることを願っています。
